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「抱きしめたい」第1話ー10  衝    撃

 そこに先ほど注文した朝食の洋食メニューが配膳された。ウェイトレスもそれとなく心配そうな面持ちだ。

三人は、朝食を済ませるとコーヒーを少しずつ飲みながら、これからの対処についての話しを始めた。

小夜は、「こんな状態では、会社に出勤する訳にもいかないから、電話して私有給休暇をとります。」と語り

かけた。すると宅実は、眉間に皺を寄せて

「今日は、大事な会議があるから会社に行くよ。でも、終わり次第にこちらに戻るからな!」と言った。

そして、三人は、とりあえずロビーカウンターで宿泊予定を三日間に切り換えた。こうした状況下では、ホテル

の部屋が確保できなくなる場合もあるからである。

 マスコミ報道は、連日ダイヤモンド・キング号に関する内容が報じられているものの、肝心の病原体に関する

ものがものが無く、さらに疾患者の名前も報じられない。よって、乗船客の親族にとっては、、不安と気苦労が

重なる一方となっていた。

 横浜港内ねを行き来する艀や海上保安庁の巡視船が二隻ダイヤモンド・キング号に向かっている様子が窓外から

確認する事ができた。

宅実は、間もなく赤坂見附にある勤務先の大手商社に向かった。また、卓也と小夜は、互いに連絡を取り合いな

がら情報収集を手分けする事にしていた。

 卓也は、厚生労働省の健康保険局を皮切りに、関連すると思われる機関のWEBサイトをチェックしたり、直接

担当部署に連絡を取る等を実施した。

 一方、小夜は、母親との連絡を再三繰り返すなどと横浜管区海上保安庁やその関係先に現在の船内状況の把握

に努めていた。

# by warau_1 | 2022-01-17 02:17 | 恋愛小説

「抱きしめたい」第1話ー9  衝    撃

 すると、ドアをノックする音がして、卓也は、ドアの鎖をつけたまま、「どちら様でしょうか」と返事した。

「お早う御座います。昨日の川添小夜です。」との返事が返って来たのでドアを開けた。

「如何でしょうか、朝食に一階の食堂に参りませんか。」と小夜が誘った。小夜もまんじりとも寝付かれなかっ

たのか、充血した目を卓也に向けた。

 食卓テーブルには、既にメニュー表並べられており、洋食メニューと和食メニューの二種類である。三人は、

揃って洋食メニューを注文し、大画面のテレビ報道に注目した。

 その報道では、「乗船客数名が高熱、又は嘔吐等の症状となっており、体調不良となっている乗船顧客を合

わせると数十名に達する。」そして、「感染症と見込まれる病原の正体は、横浜市保健所によれば、今夕には

判明する見通し」と報じられた。

 三人の沈黙が続いた。宅実しても卓也にしてもさらに小夜にしても想定外の話しだけに、ストレートに受け

止められないでいた。

 その時、宅実が携帯電話で母親に連絡を入れた。「電話が通じるかも知れない」との期待からか卓也も小夜

も宅実の電話に注目した。

「母さん、宅実だよ。今、横浜港付近のビジネス・ホテルにいるんだよ。卓也も一緒だよ。どんな状態で体調

は、大丈夫なの?」と声を掛けた。

「私は大丈夫だけどね、お父さんが高熱に見舞われていて、もしかすると感染症になったのかもしれないよ。

今、専属のお医者様に診てもらうところだけれどね。」と母親の声が聴けた。

「じゃー、診察の結果が分かったら、連絡を頂戴ね! 」と宅実は、電話を切った。小夜にしても母親の安否が

気になり電話しているものの、ダンマリのままである。やはり母親との連絡が取れないでいる。


# by warau_1 | 2022-01-17 01:42

「抱きしめたい」第1話ー8  衝    撃

 感染症対策チームは、すぐさま同181号室の消毒にとりかかった。上田夫妻が移動した部屋には、ツインの

ベッドが置かれており、体調を崩している旦那の隣のベッドに奥様が寝る様に指示された。

 船内は、感染症対策チームによる消毒活動が進むに連れ、消毒液の臭いが蔓延し、息苦しくもある程である。

やがて、船長からの船内放送が流れた。

「乗船客の皆様にお伝え申し上げます。只今、船内に感染症発生の疑いがあるため横浜市保健所による感染症

対策チームが船内消毒を実施しておりますので、今しばらくご不自由をお掛け致しますが御容赦下さい。なお、

体調の優れない方や嘔吐などのあるお客様は、各客室備え付けの電話にて、医務室までご連絡を賜りたく存じ

ます。なお、本船は、保健所の許可なく下船できませんので、合わせてご承知おきください。」

 こうした船長の船内放送がなされると、医務室の電話がやたらと鳴った。下船できる日程の問い合わせや

発熱を訴える乗船客からのもの等である。

 この時点では、何の感染症なのかは、一切乗船客にも船員にも不明のままであった。豪華客船専属医師の

見立てでは、「感染症の疑い」と断定していた。

 感染症対策チームは、その専属医師との協議を重ね、やはり「感染症の可能性が大きい」との結論に達した

模様である。正確なところは、乗船客の嘔吐物等を検査しなければ、確定する事は困難である。

 海上保安庁からのスタッフにその嘔吐物等が厳重に梱包されて渡され、検査研究所に運ばれる事になった。

「翌日の夕方になれば、その感染症の正体が判る」との一報が乗船客の親族等に伝わったのは、翌朝の事である。

夜の帳が朝焼けにお色直しし始めた頃、宅実と卓也は、深夜まで話し込んでいた事もあり、仮眠状態のまま目

が覚めた。

# by warau_1 | 2022-01-13 18:12

「抱きしめたい」第1話ー7  衝    撃

 一方、ダイヤモンド・キング号内では、保健所職員、警察官、乗務員らが感染症患者の疑いのある乗船客

をレッド・ゾーンの部屋に移動させるなど天手古舞の状態に陥っていた。

 また、一般乗客をグリーン・ゾーンに先導する等と乗員で一名嘔吐を繰り返している患者とみられるス

タッフを病室に隔離するなどの騒ぎが生じていた。

 そこに海上保安庁からの依頼により、感染症対策チームとされる医師団と看護婦ら二十名が新たに上船

して来た。彼らは、白い防護服に身を固め物々しいいでたちだった。

 彼らは、船内消毒を実施するための道具をも携えており、手際よく手すり、階段、床などに始まり船室

の各部屋をも容赦なく消毒に立ち回った。彼らが到着する前までは、乗船客に「出回らない様に」との船

長からのアナウンスがあり、殆どの乗船客が、各部屋に在室であった事から、消毒活動は、順調に進行し

たものの、中には、高熱を発している高齢者も現れる等に感染症対策チームに案内役として随行していた

乗員スタッフは、感染症対策チームの先回りをしながら次から次に各部屋を見て回り、体調を崩した乗船

客の抽出に取り組んでいた。

「船員さん、船員さん」と叫ぶ高齢女性の声がして、その船員がその声に気が付き、部屋を覗いてみると、

矢張り高齢な男性が顔色蒼白となり、ベッドで震えていた。

 船内の各個室は、豪華客船の客室だけあって、絵画等の室内インテリアもしっかりとしたものが配備

されていたが、豪華なツインベッドに横たわっている高齢男性は、それらの装飾とは、うって変わった

様相となっていた。

 船員は、「えーと181号室ですから、上田様ご夫妻でよろしいのですね。」と船室顧客名簿を見ながら

訊ねた。そして、「181号客室の上田様ご夫妻の旦那様が体調を崩しておられます。」と同船室の電話を

使い医務室に一報した。そこに遅れてやって来た感染症チームのスタッフにその状況を同船員が伝えると

「同181号から200号室に移動させる様に」との指示がなされた。つまりレッド・ゾーンへの移動である。



# by warau_1 | 2022-01-11 13:55 | 恋愛小説

「抱きしめたい」第1話ー6  衝    撃

 記者団からの質問の多くは、乗船客に関する状況と防疫体制並びに感染経路等であったが、満足のいく回答は、

一切なされなかった。それだけに乗船客の親族の立場にしてみれば、やるせなさと同時に船内の缶詰状態の中で

ウィルスが蔓延すれば、幾ら換気扇を回していても、感染リスクを凌げるはずもないとの思いが脳裏を掠めるのは、

無理からぬ話しである。

 こうした事態に既に時計は、10時を過ぎているために、宅実と卓也は、横浜から三鷹の自宅まで帰宅すれば、

再び横浜にこなければならず、近くのホテルを確保するとの判断をするしかなかった。

 同様に川添小夜も自宅の小岩まで変えるには、明日も横浜に戻る事を考えれば、ホテルを確保するしかない。

そこで、カムイでの会計の時点で店員から教えてもらったビジネス・ホテルに三人連れ添い向かった。

 11月の上旬の夜風まして港近くの気温は、可なり冷え込み始めている。そして、時折吹き寄せる港からの風が

妙に冷たい。

 ホテルのカウンターでは、既にカムイから連絡を受けていたのか、卓也が「上田ですが」と告げるや支配人ら

しき制服が「上田様でですね。二部屋確保して御座います。」と告げた。チェックイン手続きをそれぞれが済ませ

てロビーから6階の部屋に向かうためエレベーターに乗ろうとした時、ロビーのテレビが「臨時ニュース速報」と

言うロールテロップが画面に表示されているのに宅実が気が付いた。

 卓也も小夜も宅実の視線を追った。そのロールテロップでは、ダイヤモンド・キング号は、当分の間は、横浜港

に接岸されない事を告知していた。

# by warau_1 | 2022-01-09 10:59 | 恋愛小説