最後の果実➡第6話 恭子の愛ー8
登 秀麗からの電話の内容は、c国から攻められているのか、可なり切迫した感じで面談を要求
してきた。かつてハニートラップを仕掛けて来た女性でC国のエージェントだ。しかし、一向に
実績が上がらない事から、C国からの要求圧力が高まって来ているものと感じた。それだけに
君子危うきに近寄らず!との格言もある様に対応しない事が肝要と感じた。
しかし、登 秀麗からは、何度も電話が寄せられる。そこで、昼間の時間帯で昼食時間だけの間
との約束で翌日に虎ノ門の例の喫茶で会う事にした。
翌日、登 秀麗は、青ざめた顔をして私をまっていた。
「お待たせ致しました。何がありましたか?」と語り掛けると、寝ていないのか赤く充血した目で
「本間さん助けて欲しいの。今、中国からのオーダーに応えられる結果を出さないと家族が・・・」
それ以上聴くまでも無く、家族が厳しい事になるのだろうと察しはついた。
「御免なさい。今、私に出来る事は、無いと思います。お許しください。」
何とかして上げたい思いは、個人的に抱けど売国奴になりたくない事とC国の意図の察しがついて
いるだけに正にハニトラにかかるわけにはいかない。そして、昼食時間が終るとの大義名分で登 秀麗
と別れた。
デスクに戻った私を待ち構えていたのは、田代課長室にすぐ来る様にとの伝言であった。既に池戸課長
補佐のデスクに在籍していなかった。
課長室に入るテスクの前では、恭子が待ち構えていた。
「お待ちかねです。少々お待ち下さい。」と課長室に顔を出し私の入室許可を得た。
「はい」と受付デスクの前に私は、立ったままだ。
「どうぞ、お入り下さい。」と恭子は、課長室のドアを開けた。
「お待たせ致しました。」と中に入ると課長と池戸課長補佐並びに見知らぬ中年男性が座っていた。
「大分、ゆっくりな昼食だったね。」と池戸課長補佐が私を迎え、席を少し空けた。
事前の予約も無かったため多少昼食時間での空席にしたところで問題ないと考えていただけに池戸
課長補佐の言葉は、ズシリと心に刺さった。
「本間君、予定外で急遽呼び出して済まん。」と課長が私の立場を擁護してくれた。
「実は、君に来てもらったのは、例の八王子の国有地山林なのだが、その周辺の土地が民間売買され
つつある模様なのだ。つまり、こちらにおられる防衛省の高岡さんからの話しなのでね。その点を早急
に調査する事が出来るか否かを君の情報チャネルで確認して欲しい訳だよ。」
田代課長の真剣な様子に何かとんでもない事態が動き始めている事を察した。私は即答を避け
「課長、少しお時間を頂戴できませんでしょうか?」と数日の時間をもらう事にした。
「いいとも、できる限り早めに頼むよ。過日、国会で成立した『重要土地利用規制法』の施行との絡み
もありますからね。」
「はい、できる限り急ぎます。」と慎重に答えた。その答えの後に高岡氏が名刺を差し出しながら
「よろしくお願い致します。何しろ盗聴されたりしたら、米国や親密国との交渉が破綻するリスクも
有りますからね。」と高岡氏の顔には悲壮感が表れていた。それは、特に米国は、日本に機密情報を
出せば必ず他国に漏れてしまうとの見方を強めいる為に滅多なことでは、機密情報を提供してくれない。
それだけ、情報管理についてルーズな日本と見られているには、かつて漏洩の事実があるらしい。
「はい、最善の努力をしてみます。」と高岡氏の目を見ながら答えた。
課長室を出たのは、それから三十分程度してからの事である。八王子の国有地周辺で住民運動が開始
されている事を知った。私は、デスクに向かいPCでの検索で住民運動の動向やその主体についても確認
した。その運動の主体は、聞いた事もない団体である事が判明した。