痴呆の側の真実

    わからぬ相手に説明するが・・・・・!

  見える、見えない問われても痴呆の彼方の物語。時々映る幻影に

心躍るも家族にゃ見えぬ。見えりゃ痴呆と言われまい。

  まだら記憶の中で痴呆が進み、歳にゃ勝てぬか記憶の薄れ、

昔の話しは、記憶にあれど、目前の亭主・家族の顔形、思い出しても

浮かばない。「どこかで、お見受けいたしましたが、はて、どなた様?」

問われた本人「おら、おめえと長年連れ添った亭主だよ。」答えて

空しい反応見る度に、切ない思いが宿る父の顔。

  同居の家族も疲れが色濃く出るものの、つける薬がある訳じゃなし。

 母 「息子や、家の父さんの姿が見えないね!」

 兄 「母さん、目の前に居るのがおやじさんだよ。」

 母 「何を言うのここにいるのは、たこ坊主。父さんは、もう少し男前」

 父 「おまえ、俺のことが見えないのか!」

 母 「息子よ、このたこ坊主が物をしゃべったよ!」

 父 「いくら、頭が禿げ上がっているからと、そう禿げ禿げ言うなよ」

 母 「やだね。息子よ、このたこ坊主眩しくてしようがないから何とかし

てよ。」

 兄 「親父さん、ちょっと他の部屋へ一度引っ込んでから出てきてよ。」

 父 「しょうがねえな」(父、その場から一度去り、再度登場)

 母 「やだ、あなた、壁から出てきたの?いままでたこ坊主に睨まれて

いたよ」

 父 「おまえ、俺はさっきから、ここに・・・」

 兄 「まあ、まあ、言いなりに・・・・」(不満の父を静止)

 母 「まったくね。最近、たこ坊主が家の中にも出没するのにゃ閉口

するね。それにお父さんの首に絡み付いている女性は、誰かね。

やだね、人の亭主にさ。しっ、しっ」

 兄 「あのな、お母さん、その女性は、俺たちには見えないよ。みんな

が見えれば、確かに居るのだけれど、お母さんだけが見えるのは、

事実ではないのだよ。」

 母 「そうかね。私にははっきり見えるのだけれどね。そんなに私の周り

には眼の悪い人ばかりあつまってしまったのだね。ちゃんとみんな

歩けるのかい?」

 今亡き実母(93歳で他界)と家族のやり取りが鮮明に浮かぶ今日この

頃、いつも笑いの坩堝と化していた事が昨日の事の様に想起される今日、

父も90歳。

 「早起きは、三文の得」と言うけれど「長生きは、痴呆の得なのか?」
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by warau_1 | 2006-05-18 02:25 | 小話アラカルト