最後の果実 第7話 住民運動の帰結ー11
午後4時少し前に桐谷弁護士が事務所に戻った。重そうなカバンを小脇に
抱えながら部屋に入るなり、
「やあ、本間さんお待たせしてしまいました。済みません」と私の座る前に
腰を下ろし「本日は、如何な件でしょう。例の八王子ですか?」
既に桐谷弁護士は、内容を察していた模様である。そして、静かに
「実は、その件で妙案が有るんですよ。それは、一切対象地域の開発を許可
しない方法がある事に気が付いたのですよ。」
「桐谷さん、一体全体そんな方法があるのですか?」
「うん、所管がことなるけれど、農林省と環境省の合意が必要なんだけれどね」
「そ、それは、如何なる方法なのですか?」
「それはね、『緑地化区域指定』と言う方法でね、幾つかの条件が合致すれば
承認されるみたいですよ。それは、地主の承諾があれば、国が土地借用代を支払
っても実施できるらしい。」
桐谷弁護士の情報は、にわかに私の身体にに力を取り戻させてくれた。さらに桐谷
弁護士は、続けた。
「もう一つの方法はね、『重要土地利用規制法』で網を掛ける方法もあると言う事
ですかね!」
それまで、デッドロックと思い込んでいた自分が情けなくなるくらい目の前が
明るくなった。そんな思いを抱き官邸に向かった。既に午後5時を回る時間帯に
なりつつあり、官邸調査課の池内朋子嬢に電話を入れ、調査主任島谷悠太氏に帰宅
の時間をずらしてもらう様に伝えた。
当然、島谷主任は、山崎技官と共に私の帰りを待ち兼ねていた。
「やあ、お疲れ様でした。」山崎技官が出迎えてくれた。そして、私が席に着くなり
「こちらで話しをしましょう!」と応接の部屋を指さし、池内譲に、応接間にコーヒ
ーを出してくれる様に依頼した。
「で、成り行きは、如何となりましたか?」と島谷主任が語り掛けた。
「C国の意図は、様々想定されますが、住民側は、一歩も引く気配が有りません。
よって、重要土地利用規制法で対象地域を指定するとか、緑地化区域指定の方法
での規制を掛ける事でC国への断りの大義名分ができるものと思います。」
と八王子地域住民の治山治水の事も念頭に語った。
「島谷主任、その視点も検討する価値がありますね。」と山崎技官が言葉を加えた。
「・・・・・・・」と島谷主任は、手を組んだまま考え込んでしまった。
「島谷主任、時間を稼ぐにしても是非ご検討いただけませんか?」
「うん、そうした展開を図るには、農林省・環境省・防衛省の意見も訊かなければ
なりませんからね。」と島谷主任は、しばらく考え込みながら
「よし、分かった。本間さん、有難う。関係省庁を集めて会議を開きましょう。」
ついに物事が動き始めた。